2005年 05月 20日
映画「シェーン」の解説 (その一)
映画を語る時には解説者淀川長治さんを抜きにする訳にはいかない。五十過ぎの日本人だったら、”さいなら”おじさんの彼を知らない人はまずいないと思う。そして彼の解説を聞いて誰しも映画にのめり込んでいったのではないだろうか。一箱の段ポールの中に映画のプログラムが何十冊となく詰まっている。私が観た映画のプログラムなのだ。
「シェーンの舞台たるワイオミングとそしてこのアメリカの開拓の足跡」、あの淀川長治さんが映画「シェーン」のプログラムに寄稿した解説である。映画以上に感動する解説なので、前にも何処かで披露した事があるが、ここにもその一部を何回かに分けて抜粋し、再び心に留めておく事にする。 ============================== この映画の脚色にはとくにA・B・ガスリー・ジュニアーが当たっている。彼はカーク・ダラスが主演した「果てしなき蒼空」の原作者であり、西部小説でピューリッツァー賞を受けた作家である。 西部小説でピュリッツアー賞をとったような作家だから「シェーン」の脚色にもウェスタァン・・・・と云うよりもワイオミングの開拓民の生活や事件にでたらめな脚色をするわけもない。 「シェーン」を観て一番感心したことが実はそれである。あの開拓民のたたずまい。 ファースト・シーンでジョーイ坊やが鹿が小川の水を呑みにきたのを長銃で狙っている。おや、あんな子が長銃であの鹿を撃つのかな・・・そう思っていると実はその長銃には弾が込められていない。子供はただ射撃するまねをしているだけである。 たったその一つだけのことでも、当時の開拓者の「生活」が見事に出ていて、両親がこんな小さな子供にタマの入った鉄砲なんて持たせはしない・・・・と云うことが、なんでもないようで非常に心暖かく善良で教育的に見えるのである。それでこの坊やの「家」もきっと「心やさしい、いい家」だと云う気持ちが持てるのである。 この映画はファースト・シーンからこれだけ西部の真実を示してくれる。そしてシェーンがこの一家にやがて居つくわけになるのだが、この家族のそれぞれの登場者の会話の面白さ。 「まま、ぼくシェーンが好きになってもいい」それを坊やから聞く母の、まだ青春の消えきらないような美しい母が、かすかな心の奥底にシェーンを恋し愛し、それを恐れてもいる母の耳にどう響くことか。 そんな時善良な母は、坊やのその父に向かって「貴方、わたしをしっかりと抱きしめて下さい、しっかりと・・・」とすがったのである。 そしてその父が坊やに「シェーンをあんまり好くでねえぞ、あんまり好くと、シェーンが出てゆく時、とってもつらいからな」・・・その子供にさとす、その父親の何気ない言葉が、そのまま彼の妻の耳にも風のような軽やかさで、しかも肌にしみるように聞こえてくる・・・・このお互いの会話の美しさ! *** 私がもう一つ感心してしまったのは、納屋で寝泊まりしているシェーンのことだった。こういう納屋を客人に使うのはそう珍しくもなかったが、雨が降ってきて、その雨の中で棒立ちになっているシェーンを窓越しに見たジョーイ坊やが「お母さん、シェーンをお家に入れてあげないの」というところ。 ここで母がそうしなかったこと、また雨に濡れそびれたシェーンが家の中に入ろうとはしなかったこと。 この「家」のなんと感じを出していたことか。納屋といっても、粗末な家のぎこちない窓からはすぐにも手を出せば納屋のものが掴み取れそうなそんな家と納屋の構造が、やっぱりスティーヴンスの確かな目で、そしてシナリオを引き受けたA・B・ガスリー・ジュニアの行き届いた西部開拓当時の時代考証で、いかにも一八八九年の西部の開拓民の貧しさを出しており、また、雨中のシェーンが家のなか、特に坊やの母のいる、その家の中に入ろうとしないこと、また坊やの母もお入りと云わなかったことが・・・・シェーンとジョーの妻の、きびしい自戒の心のうちが哀れさびしく、しかも、まことに清く美しく出て見事であった。 *** つづく
by antsuan
| 2005-05-20 05:55
| 身の回り・思い出
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平成15年(西暦2005年)3月開設
世の中、理不尽なことが多すぎます。それが普通の世界だということがようやく分かってきました。しかし人間として生きるためには獣のように本能に心をゆだねるのではなく、精神をしっかり持たねばなりません。「健全なる肉体に健全なる精神を宿らしめよ」を自戒の言葉に、右左あんつぁん(東北弁で臍曲がりなこと)の本領を発揮して、いろいろ書いてみたいと思います。どうぞ宜しく。
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