2005年 07月 14日
松蔭寺の和尚
昨日の読売新聞の夕刊、夜景五十三次に東海道線原駅付近の夜景とともに、白隠禅師ゆかりの松蔭寺のことが紹介されていた。何を隠そう、今から三十年ほど前に私はそこに下宿していたのです。まだまだ鮮明に覚えているので茶色の写真に加えるのは気が早いのですが、そこでの一年間の下宿生活も自分にとっては大人へ脱皮する貴重な時間だったように思います。
学生だけのアパート生活にむさ苦しさを感じていたとき、ほかの学科に所属している友人が、その寺を見つけてきて、ちょっと怖そうな坊さんがいるので一緒に行って話してくれというので、二人してその寺の住職のところに会いに行きました。国鉄の線路沿いにある普通の寺でしたが、友人のいう通り体格がよくて冬でも胸元を出して胸毛をぼりぼり掻いている、一見生臭坊主のような感じの住職でした。 後で聞いたのですが、その住職は老師という立派な肩書きを持つ、気軽に話しかけられるようなお方でないとのことでしたが、こちらの気持ちを理解してくださったのか、庭の掃除をする条件で下宿させてもらえることになりました。 寺に住むことの物珍しさもあって何でも手伝い、すぐに一緒に住んでいる人と親しくなりました。風呂は五右衛門風呂です。薪代わりになんと位牌を燃やしました。友人は気持ち悪がっていましたが、ちゃんと拝んであるから大丈夫だという坊さんの言葉を信じてジャンジャンくべました。本堂に誰もいないとき、木魚をたたいてもその老師の住職はは全然お懲りもしませんし文句も言いませんでした。それで、寺男のおじさんがよく寝坊をして朝の鐘を鳴らすのが遅れるので、私たちにもやらせてくれといったところ、これまたオーケーの返事がありました。 なんでも、この住職、人に頼まれて断ったためしがないということで、共産党の集会にも寺を使わせていたとかいうエピソードが残っているそうです。それはさておき、友人と代わる代わる朝起きて鐘を鳴らしていました。鐘の撞き方はおじさんに適当に教わっただけなので本当にいい加減で、般若心境を唱えながらただ鐘を撞いていました。どうやら周りの人々から、まるで半鐘のようだと言われていたようですが、住職は一言も我々に説教することはありませんでした。 また、禅寺ですから禅堂があり、よくお茶の稽古に来ている女子高生が気持ちを統一するためにといって座禅を組みに来ていて、つきあいで一緒に座禅を組まされました。読売ジャイアンツが九連覇していた頃には、川上監督や王選手などが座禅を組みに来ていたと、その寺男のおじさんは自慢していました。 ところが、その住職の老師が座禅を組んでいたところは一度も見たことがありません。住職は檀家の人と奥の部屋で、よく徹夜マージャンをやっていたりしていましたので、ま、滅多に座禅なんかしないのだろうと思っていました。 しかし、朝晩少し冷え込むようになってきた頃、鐘を撞く前に友人と二人でガランドウの禅堂で適当に座禅を組んでいました。辺りはまだ真っ暗な闇です。そして少し白み始めて、目を開けて外へ出ようとしたとき、いつものように振り返って礼をしようとすると、正面の仏像が何となく少し大きく見えたのです。わずかな明かりを頼りによく見てみると、なんと老師が仏像の目の前で座禅していたのです。全く気配すら感じませんでした。まるで仏像そのもののような姿に正直いって身震いしてしまいました。
by antsuan
| 2005-07-14 23:57
| 身の回り・思い出
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平成15年(西暦2005年)3月開設
世の中、理不尽なことが多すぎます。それが普通の世界だということがようやく分かってきました。しかし人間として生きるためには獣のように本能に心をゆだねるのではなく、精神をしっかり持たねばなりません。「健全なる肉体に健全なる精神を宿らしめよ」を自戒の言葉に、右左あんつぁん(東北弁で臍曲がりなこと)の本領を発揮して、いろいろ書いてみたいと思います。どうぞ宜しく。
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