あんつぁんの風の吹くまま

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村上春樹が好きになった

 受賞スピーチに感動しました。

 反戦主義の方達だけでなく正義を貫こうとしている人々も、文藝春秋四月号に載っている、村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチ「壁と卵」を読んでみて下さい。
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 今まで、何となくイメージとして村上春樹が好きではありませんでした。「僕」という一人称を気軽に使う人を余り好まないのと、「ノルウェーの森」ではなく、何で「ノルウェイの森」なのかとか、「アンダーグラウンド」、「ねじまき鳥クロニクル」、「海辺のカフカ」などなど、横文字を気軽に使う作家に、どうしても抵抗を感じてしまっていたのでした。また、海外での人気が高いと云うのも、年代が私とほぼ同じなのに、感性が日本人としてのものと違っているんじゃないかと偏見を持っていました。
 
 この文藝春秋の独占インタビューでは、「父にまつわる死の気配」という章があります。私たちの年代の父親はほぼみんな戦争体験があります。ところが、村上春樹はその父親の影響をあんまり受けていないのでは無いかと勝手に想像していました。
 
 また、カソルラさんが、その村上春樹のお父様と偶然に会って話をしたことがあると、ブログで紹介してくれたことがありますが、その時も、何となく戦争体験のないお父様だったのではないかと云う想像をしてしまいました。
 
 ところが、それはとんでもない間違いで、戦争体験を持つ、教師であり僧侶であったのです。村上春樹は、その父の後ろ姿に常に死の影が漂っているのを感じ取っていたのです。
 
 彼は父親から死の気配をしっかりと引き継いでいたのでした。そして、父の戦争体験を念頭において、彼は次のように話しています。
 
 ホロコーストを生き残った人は恥の感情を強く持っていると良く言われますが、確かにそれは感じました。ユダヤ人はあの時、ナチに抵抗出来ずに家族や仲間を収容所で殺され、目の前で石鹸にされてしまった。だからこれからはけっして無抵抗ではいけない、再び石鹸になってはいけない、という気持ちがすごく強い。実際にそういう生き残りの人達は一部で侮蔑的に「石鹸」と呼ばれているそうです。
 つまりイスラエルという国自体が、個人と同じレベルでトラウマを背負っているのです。過剰防衛はいけないと頭で分かっていても、少しでも攻撃されれば身体が勝手に強く反撃してしまうのかも知れない。正しい正しくないとは別に、我々はその心理システムを理解する必要があります。

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 人は原理主義に取り込まれると、魂の柔らかい部分を失って行きます。そして自分の力で感じ取り、考えることを放棄してしまう。原理原則のままに動くようになる。その方が楽だからです。迷うことも無いし、傷つくこともなくなる。彼らは魂をシステムに委譲してしまうわけです。

 
 やっぱり、彼は私とおんなじ世代だったのでした。この部分を読んで一遍に彼が好きになってしまいました。彼の作品が好きと云うのではなく、作家としての彼が好きになったのです。
 
 嘘を書く商売の作家でなくては、そのような感性を表現出来ないと思うのです。そして、もういちど、村上春樹の父親に会った時の印象を、カソルラさんに聞いてみたくなりました。
by antsuan | 2009-03-14 17:07 | 思想・瞑想・時代考証 | Comments(6)
Commented by yuuko-11 at 2009-03-14 17:37
書きかけ中すまぬが、↓でつか?
http://www.47news.jp/47topics/e/93925.php
って読んでないのだが…
Commented by antsuan at 2009-03-14 17:51
・yuuko-11さん、原文は英語で書かれているそうで、それをいろんな人が訳しているみたいですね。どの訳でも大差ないと思います。
Commented by みみずすまし at 2009-03-15 17:41 x
この寄稿、読みたいと思っています。
図書館に行った時に読もうと思いつつなかなかなんです。

スピーチのあと、会場からは割れんばかりの拍手が起こったと言いますね。
世界から起こった拍手ではなく、イスラエル国内から起こった拍手。
意味するところが大きいと思っています。

村上作品は、初期のものが一番と僕は思っています。
僕僕僕(笑)
Commented by antsuan at 2009-03-15 19:38
・みみずすましさん、作家と云うのは、魂の遊びの部分で生きて行く人だと思うのです。そういう人間だからこそ、原理主義に走る社会に警鐘を鳴らせるのでしょう。

ただし、今のイスラエルやアメリカには、移民という原住民を排除する力学が最初からあったと云うことも考慮する必要がありそうです。

僕僕僕、、、。木魚を叩いているのね。(笑)
Commented by yukiwaa at 2009-03-16 12:19
そうです。私もあんつぁんさんと最初は同じ考えでした。「西洋で認められている人」と言う感じ。本は1冊しか読んでません。以前カソルラさんが好きでよくブログで書かれていて、興味を持ち読んだのと、最近「京都新聞」が村上春樹を連載してるのです。嫌でも読みます。それにこのスピーチでした。私もブログに載せましたが「感動した」ひとりです。
以前カソルラさんが団塊の世代だけど「熱くならない人」と言われてましたが。彼はやはり「熱くなる人」だったと思いました。このような報道を何故、もっとしないのか?今の「@報道のあり方」は幼稚です。それぞれが違ったものを取り上げればいいのに・・皆同じものを取り上げる・・ツマラナイですね。文芸春愁4月号ですね。読んでみたいです
Commented by antsuan at 2009-03-16 20:08
・yukiwaaさん、トラックバックするんだった。でも、中川さんと一緒じゃ可哀想。(笑)

私は、村上春樹がお父さまの背中をしっかりと見ていたんだなぁと、そこが好きになった理由です。