あんつぁんの風の吹くまま

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「イチゴ白書」を知らない





 仕事が終わって車で帰る道は二通りある。山手回りと海岸回りだ。山手回りは近いが暗くて寂しいので、燃費のことを気にするようになってからは殆ど使っていない。しかし昨日は違った。車が夜露に濡れていて窓の外がよく見えない。何となく不安になって、早く帰れる道を選ぶ事にした。
 
 iPodをカーラジオに繋いでお気に入りの曲を聴く。「『イチゴ白書』をもう一度」が流れてきた。ヘアピンカーブのコーナーだ。オレはアクセルを吹かした。軽く身体が押し付けられ、車は加速して行く。バンバンだかビリーバンバンだかの曲だった。オレが二十五歳の時の曲だ。反戦フォークしか興味のないオレには関係ない。恋もした事がなければ、もちろん失恋した事もない。だから、こんな曲なんてつまらない。ただ、坂道を登って行くには妙にテンポが合っているような気がする。

 今度のコーナーを大きく右に曲がると、道はまっすぐの一寸急な上り坂になる。またアクセルをぐっと踏み込んだ。と、急に身体が軽くなった。坂を登るタイヤの抵抗が感じられない。ハッと思うと道がない。急ブレーキをかけたがブレーキの感覚もない。スーッと異次元の世界に入ったようだ。


 また現れた、夜叉だ。

 くそーっ、今度こそやっつけてやる。魑魅魍魎のこいつらをやっつけてやる。それがオレの役目だ。オレがこの世に生まれてきたのは、お前達を退治するためなんだ。

 オレは刀を抜いた。夜叉は現れては消え、また現れる。一歩踏み込む、刀を一閃する。手応えがあった。夜叉は動かない。動かないがこちらも動けない。切ったはずなのだが、夜叉の衣に乱れもない。オレはぐっと夜叉を睨んだ。向こうもオレを見つめている。

 と、夜叉の顔は仮面だった。とうとう正体を現したな。オレは刀を握り直し再び睨み返した。が、しかし、仮面の中の顔から涙が流れている。そんなはずはない。しかし、あの目は涙で光っている。

 えぇーーいっ。邪念を振り払うべく、夜叉の前で空を切った。と、夜叉はスーッと消えた。あたりは薄が騒めいているだけだ。冷たい風だった。あたりを一回りし、空を切ったあたりを見ると、扇が落ちている。

 広げてみると、なにも描かれていない真っ白な扇だった。真っ白だったが、一点だけ涙で濡れたようにシミがあった。そんなはずはない、オレは怒り狂って、その扇で薄の穂を振り払った。するとどうだろう。真っ白な扇に、ぽつ、ぽつっと、また涙の跡のようなシミが増えていくではないか。

 オレは狼狽した。そんなはずはない。オレが闘っているのは悪魔なのだ。鬼どもなのだ。オレは扇を放り投げた。

 それはひらりと一舞いすると、すーっと煙になり、天女が現れた。

 「 お前の闘うのは悪であり、人ではありませぬ 」 天女は云った。
 「 なにーっ、そんなことは分かっておるわっ 」
 「 それならば、何故そのような武器を使うのじゃ 」
 「 えっ、では何を使えと 」
 「 お前が今見たものを使いなさい 」

 そう云うと、また天女は煙のようになり、こんどは淡雪がぱらぱらと降ってきた。淡雪は、光り輝く刀について解け、小さな水玉になった。あの仮面の奥の目に光った涙のように。


 パパパーッ。後ろから急に警笛を鳴らされた。見ると目の前の信号が青になっている。オレは慌ててギァーを入れ発進した。

 いつもの道だ。しかし、曲はいつの間にか「白いブランコ」になっていた。


by antsuan | 2008-10-29 09:17 | 身の回り・思い出 | Trackback | Comments(6)
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Commented by ナルミミズ at 2008-10-29 16:58 x
この記事は私信け?
何が言いたいのか、、、読めん。。。
まあ、あんつぁん今、、、四面楚歌だからしゃあないか(笑)
Commented by antsuan at 2008-10-29 20:08
・もちろん後悔日記で御座いますよ。(笑)
売れない文士のご忠言を考察して、ちょっと作文してみたわけです。

ユウチューブが気軽に貼れるようになったけど、この頃の駅風呂、またちょっと不安定じゃありませんか?こっちの回線のせいなんだろうか。
Commented by saheizi-inokori at 2008-10-29 22:11
事故にあわないように^^。
Commented by antsuan at 2008-10-29 22:20
・佐平次さん、何処で遭遇するか分かりませんものね。
お騒がせいたしました。 <(_ _)>
Commented by yukiwaa at 2008-10-31 13:47
こんな、あんつぁん初めてみたよ!お疲れですね。
Commented by antsuan at 2008-10-31 18:08
・yukiwaaさん、鞍馬天狗のように格好良くはいかないものですね。