あんつぁんの風の吹くまま

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作家の名前

 三月十三日の讀売新聞に三浦綾子の「塩狩峠」が実話であったことが書かれていた。この本をまだ読んでいないが、と言うか三浦綾子の本を一度も読んではいないのだが、彼女がキリスト教信者であったことはよく知っていたので、多分そちら方面の物語であろうことは想像がつく。そういえば彼女はもう故人だったのだ。
 先ほど述べたように三浦綾子の本を読んだわけでも、彼女に会ったわけでもないのだが、彼女の名前は自分が一時期特別な環境にいた時に覚えた名前だったので忘れることが出来ないのである。
 それは中学三年の夏休みのことだった。就職勉強をしている親戚の兄さんが、私の高校生の兄を臨時に作られた裏磐梯の学生村に誘ったのである。しかし、兄は行く直前に嫌がり出して、急きょ理由もなく弟の私が行くことになった。福島市には小学一年まで住んでいたことがあったので一人で行くことに不安はなかったが、ようやく電気が引かれたというような村落といったイメージがぴったりの知らない土地へ行くことは、一つひとつが大人の経験だった。
 その学生村に集まっている学生はほとんどが大人で、親戚の兄と一緒とはいえ自分には場違いの場所である。ある人は芸大に受けるべくフルートを吹いていたし、学生は皆、その農家の空き部屋でじっくり勉強をしているのである。店も雑貨屋が一軒だけ。そんなところで誰と接触することもなく一日を過ごすことが出来るのであるが、朝と夕だけは村の集会所に学生が集まって食事をすることになっていた。そこではテレビはもちろんラジオもない。社会のことを知るには唯一新聞だけであった。
 ところが、毎朝来るその新聞をある女子大生が独占していたのである。みんなが見たがっていた新聞を真っ先にその女子大生が読んでいるのだった。私はその人が何故みんなの迷惑を顧みずその新聞を読みたがっているのか知りたくなった。しかし見ず知らずの女の人にそんなことを聞くのも近づくのも恥ずかしい。さらに彼女が読み終わった後は他の学生がその新聞を読みあさるので、朝食の時間に新聞を読むのは不可能だった。
 だが、程なくして古新聞の切り取られた部分を見て彼女が何を読もうとしていたのかわかった。それは連載小説の部分だったのである。朝日新聞は懸賞付きの小説を一般から募集し、その発表作を連載していたのである。それが三浦綾子の氷点であった。
 それ以来私も連載小説を読みふけるようになり、新聞というものを読む人間に成長した。
by antsuan | 2005-03-14 07:14 | 身の回り・思い出 | Trackback | Comments(4)
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Commented by falls_niagara at 2005-03-14 07:19
こんにちは。
三浦綾子の作品は結構読みました。「氷点」で初めて出会ったのですが、そのときはまだ小学生だったと思います。塩狩峠は高校生の時に読みました。氷点は2、3回違う年齢で読みました。
今読んだらどうなのかなーと思います。もしお読みになったらまた感想をお聞かせください。
Commented by antsuan at 2005-03-14 11:26
falls_niagaraさん、こんにちは
 小学生時代に「氷点」をお読みだったんですか。テレビドラマでは見たんですが、原罪というテーマが重すぎて消化不良を起こしてしまいました。昨年、「ダ・ビンチのコード」を読んで少々キリスト教不信になっているところですが、三浦綾子の純真さに接してみるのもいいかも知れません。
Commented by saheizi-inokori at 2006-06-14 13:18
湖、って何かそういう思い出にふさわしい場所のような気がします。その女子大生はそのことを覚えているのかなあ。
Commented by antsuan at 2006-06-14 16:23
桧原湖、それは私にとって青い青い青春とも言えない、しかし独り立ちの出発点であったところなのです。想い出を壊したくない気持ちがまだ半分以上あって心の中の風景はまだそのままです。