あんつぁんの風の吹くまま

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バー「ブログ」の客

 港町横浜は元町にあるバー「ブログ」。ここにはいろんな客がやって来る。港町だから当然だが、船乗り、貿易会社の社長や、港湾関係の公務員、ときどき季節労働者も入って来る。そして、どういうわけか出版関係の人達やゴシップ記者、売れない文士などもいる。だからホステスも結構多い。

 おんぼろ船の船長の俺も毎日のように入り浸っている。というのも船荷はすっかりコンテナ船に持っていかれて、もっぱらバラ積みの荷物しか扱わなくなったから、積み荷が一杯になるまで船を出すことはないからだ。

 ところがそのバーにちょっとした異変が起きた。人気のママが居なくなったのだ。彼女の旦那はあちらの人で、海洋研究をしているらしく研究の為に家を空けることが多くて、その旦那の留守の間にマダムをやっていたらしいのだが、どうやら旦那が戻ってきたみたいで店に顔を出さなくなった。

 常連の客は、やっぱりママが居ないのを寂しがっているのだが、それでもバー「ブログ」は居心地がとてもいいので足が遠くなることはない。そんな常連客の一人、売れない文士も、相変わらずホステス達と際どい会話を交わして、みんなを楽しませている。彼は人生経験が豊富なのだ。

 カウンターの端に座っている俺もときどき話に加わるのだが、女心なんて読めやしないから適当なところで止めておくのだが、聞いているだけで楽しいからカウンターから離れるつもりもない。

 しかし、この間はこのカウンターでいざこざがあった。売れない文士とホステスが交わした怪しい会話に、常連だが酒の飲めない、まして場の雰囲気を読めないサラリーマンがいちゃもんを付けたらしい。生憎、俺が席を外した時だった。

 そんなことはバー「ブログ」にとって珍しいことではない。いつもだったら、ママさんがさり気なくサラリーマンのお相手をして、何事も起こらないようにするところだ。しかし、こんどばかりはホステスの、間に入るタイミングがズレてしまった。

 売れない文士はこんな馬鹿なサラリーマンが来る店にはもう来ないと言い出した。あわてたホステスが何とか取りなそうとするのだが、残念だが、それを出来るのはママさんしか居ない。

 金を払って店を出て行こうとした時、売れない文士はレシートにメモが挟まっているのを見付けた。何て書いてあったかは分からないが、それを読んだ文士は開けたドアを再び閉め、カウンターに戻ってきてコーラを注文し、サラリーマンにお詫びの印として差し出した。
 
 みんなの冷たい視線を浴びて顔を引きつらせていたサラリーマンは、ホッとしてそのコーラを一気に飲み干した。そして今度は、サラリーマンもホステスたちにコーラをおごるのだった。
 
 バー「ブログ」は相変わらず繁盛している。
by antsuan | 2008-06-15 09:14 | 情報通信・パソコン | Trackback | Comments(6)
Commented by maron415 at 2008-06-15 10:58
なかなか、おもしろいですね。
↓の「人だかり」のときもそうですが、
あんつぁんに、こういう面があったんだなあと
そのほうに、ちょっとびっくりでつ。
Commented by saheizi-inokori at 2008-06-15 12:47
ちわ~す!
いつものちょうだい!
酔ってなんかいないんって。ひっく!
Commented by syenronbenkei at 2008-06-15 14:54
声に出して笑ってしまいました。
マロンママさんじゃないけど、あんつぁんにこういう○○(←お好きな言葉を入れてくさい)があるとは思いませんでした。
Commented by antsuan at 2008-06-15 20:53
・マロンママさん、映画「カサブランカ」をパクっだだけですよ。このところ寝不足でねぇー、下らないことを考えています。(苦笑)
Commented by antsuan at 2008-06-15 20:54
・佐平次さん、あのメモを書いた人、単なる酔っ払いじゃないと見ましたよ。
今度は俺もテーブルで飲むとしますか。(笑)
Commented by antsuan at 2008-06-15 20:54
・セイロンベンケイさん、マドロスだって本当は人恋しいんですよ。今度は女も乗せる船の船長になろうかと思ってます。(笑)