あんつぁんの風の吹くまま

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「幸福と成功だけが人生か」を読み終えて

 「ふるさと」に帰ればどの家にも見られた、昭和天皇の御真影と神棚とそれに仏壇という、神仏信仰の三幅対はもはやまったく見られなくなった。島倉千代子が歌った「東京だよ、おっ母さん」を今振り返ってみると、日本の国民信仰の基盤がすっかり薄らいできていると、この本の著者、山折哲雄は云う。

 そういえば、祖父が生きていた時、あの畳を替えた炬燵の部屋には、神棚があり仏壇があって、そうして、柱に飾ってあった何かの絵の額の裏にはこっそり天皇皇后両陛下のお写真が隠されていたのを思い出した。昭和四十年前半までのことであった。

 「東京だよ、おっ母さん」の第一番「ここが、ここが二重橋」は、天皇という名の日本の伝統を確かめ、第二番「あれが、あれが九段坂」で、死者そして祖先の面影を偲び、第三番「ここが、ここが浅草よ」で、己の魂の救いを求めたのだ。もっとも、NHK放送では見事にこの二番は飛ばして歌われたように、三幅対も忘却の彼方に押しやられ、これまでの日本人の心の原風景は跡形もなく消え去ったかのようである。
 
 そして、我々日本人たちは"敗北を抱きしめ"、この"三幅対"を忘れ去り、戦後を生き抜いてきた。その結果、得たものは果たして「幸福」だったのだろうか、あるいは「成功」だったのであろうか。日本人たちが今なお持ち続けている短歌的叙情を思う時、人生の中に「悲しみ」の清らかな旋律が響き渡っているのを認めないわけには行かない。
by antsuan | 2007-12-05 23:49 | 思想・瞑想・時代考証 | Comments(6)
Commented by hisako-baaba at 2007-12-06 13:55
そうそう、三幅対有りましたね。

あがめるものが無くなった?案外そうで無い面もありませんか?

でも『罰が当たる』と言う感覚が麻痺しているなと言う事件が多いですけどね・・・

お体の為には粗食を・・・どうぞお大事になさってください、ご家族の為に。
Commented by syenronbenkei at 2007-12-07 23:56
三幅対って言葉、知りませんでした。
調べてみたらなんか常用語的な言葉で(でも多くは掛け軸の世界とかで使われる?)みたいで、使う使わないは別の話として、常用語を「知らない」というのはなんだか恥ずかしい気がします。
そういう意味で、「東京だよ、おっ母さん」の歌もそういう歌詞なのかと初めて知りました。

正直、僕は天皇ってよくわかりません。
機会があれば程度の興味ですが、あんつぁんさんの記事から、ちょっと学んでみようかなと思わされました。
Commented by antsuan at 2007-12-08 00:25
・ hisako-baabaさん、お気遣いありがとうございます。
そうそう"罰が当たる"と云う言葉、大切だと思います。その言葉には人間が人間を裁くべきではない、という思想を含んでいると思います。
Commented by antsuan at 2007-12-08 00:26
・セイロンベンケイさん、私もあの歌にそのような繋がりがあろうとは気が付きませんでした。
「もののあわれ」と「短歌的叙情」は自然に対する畏敬の念から生じているのでしょうか。この辺に人間の生き方に対する一つの解答があるように思われます。
Commented by rabbitfootmh at 2008-02-26 18:47
TBありがとうございます。
何か気高いもののために、自分の身を捧げる、という気概を持てないと、日本人は頑張れないのでしょうかね。
私の父は、昭和5年生れで学徒動員まででしたが、けっこう、戦争に対しては、バランスの取れた視点を持っていると思います。
やはり、親の世界観は、子の思想に影響を与えますね。
Commented by antsuan at 2008-02-26 22:14
・ rabbitfootmhさん、幸福とか成功とか云うより、「無事、これ名馬」だと思うのですよ。