あんつぁんの風の吹くまま

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朝霧の原風景

 皐月、ここ三浦半島でも一番爽やかな季節になった。時々メイストームなんていう台風並みの嵐がやって来るけれども今年は珍しくまだ来ない。もう四時を過ぎると空が明るくなってひんやりとした空気があたりを支配しているのが分かる。そして朝日が昇る頃、海に出てみると朝靄が立ちこめ視界を遮っている。上を見上げると青空が見える不思議な世界だ。

 山や高原では朝霧と云うのだろうか、前にも書いたが、裏磐梯の桧原湖のそばの学生村で夏休みを過ごしていた時に、ふもとから白い物が湧き上がってきていつの間にか周りを覆ってしまった。それが朝霧だった。此れが雲の本体なのかとその時に始めて実感したものだ。

 朝霧と云うと生まれ故郷の景色を忘れる事が出来ない。生まれた家は街並みからちょっと外れた山の梺に在って、そこからは街道沿いの家々、田んぼの中を横切る奥羽本線の線路、そしてずっと向こうには鳥海山が見渡せた。産婆さんに取り上げてもらったのでその家が本当に私が生まれた場所なのである。夏休みには必ずと言っていいほど此の母の実家へ遊びに行っていた。

 その家は大正の当時としては珍しい、今で言うツーバイフォーで造られた洋風の建物で、窓で囲まれてはいたがベランダがあり、そこから先ほどの景色が一望出来るのだった。そして私には特権があった。祖父が持っていた駆逐艦の艦長からもらったと云う海軍の双眼鏡を使わせてもらっていたのだ。

 朝起きると汽笛の音が聞こえる。早速その双眼鏡を持ってベランダへ出る。さながら駆逐艦の艦長になった気分だ。と、木立の向こうから黒い煙が見える。双眼鏡を構え、木立の方へ焦点を合わせると、見えた、蒸気機関車が田んぼの真ん中を横切って行く。    

 その吹き上げた黒い煙の向こうには、朝霧を帯のようにたなびかせ、万年雪を残す鳥海山が青くくっきりと映っている。此の景色はいま居る葉山から見る富士の景色と全く変わらない。それは祖父の形見としてその双眼鏡を手元に持っているせいであろうか。
by antsuan | 2005-05-18 08:24 | 身の回り・思い出 | Comments(0)