あんつぁんの風の吹くまま

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友人のこと



 今は当たり前になっている新幹線や高速道路など、日本で初めてと云うものがちょうど中学生のころにどんどん出来てきたのですが、通い始めた中学校は当時の横浜の繁華街、それもちょっと外れに麻薬街もあるようなところの丘の上に立っていて、駅のホームには成人映画のポスターが貼られ、路地のあちこちにストリップ劇場の看板が立っていたような風紀の怪しい通学路を、鈍感だった私はなんの刺激を受けることもなく通学していたのですが、やはりそのような田舎者を相手にしてくれる友達はいませんでした。

 私が入学した同じ時期に赴任してきた、まるで石坂洋次郎の小説から飛び出してきたような元気のいい若い女の先生に、生徒の人気は集まり、私もほのかに想いを寄せるようになったのですが、その先生と気軽に話しかけられる生徒が羨ましくあっても、私はそれを遠巻きに見ているだけでした。そして、ようやくそういう仲間の輪に入ることが出来るようになった頃、その先生は結婚し出産のため学校を辞めてしまったのです。

 仲間に入れてもらったグループは学年のマドンナや人気の男子生徒もいて、ときどきグループで封切りの映画を見に行くようになりました。後で知ったのですが、銀座や渋谷方面まで足を伸ばしたために不良グループとして学校に目をつけられていたようです。決して不健全な行為はしなかったのですが、周りが認知するほどにそのマドンナと人気の男子生徒はぴったりのカップルだったのです。

 その友人のことは前にもチラッと書きましたが、浜っ子でやくざの抗争がしょっちゅうある繁華街のそばに住んでいました。私と親しくなったきっかけは正義感に共感したのだと思っているのですが、背は低いほうで、野球部でピッチャーをやり、声が低くて歌もうまく、おまけに達筆だったので先生も一目置くような生徒でした。

 忘れもしません、友人とマドンナと私で、あの辞められた先生のところへ遊びに行った帰りの東横線でのことです。急行は始発の渋谷から混んでいて我々三人は混んでくるに従いだんだん中の方に入って行きつり革につかまっていました。その前に座っていた男は一見してやくざ風の男で、腕を組み足を広げていたので、隣の人は肩が触れないように反対側によって座っていました。

 その男と友人は目が合ったのでしょう。男は「目障りだ、あっちへ行け」と凄みました。友人は無視しました。チンピラの言うことなんか聞いてもしょうがないと云う風です。私たちはまだ高校二年生でした。男はもう一度同じことを言い今度は友人の足を蹴飛ばしました。その途端、混んでいた車内は私たちの周りから人がいなくなりました。

 友人はマドンナを私に預けて、チンピラの前に立ちはだかったままです。
「なんだと! もう一度言ってみろ!」 友人の低くドスの利いた声でした。
周りの大人はかたずを呑んで見守っています。いざとなったら加勢するつもりで近くにいましたが、マドンナが私にピタッとついているために、結局、友人とはちょっと離れることにしました。

 友人は相変わらず男と一対一で向き合っています。
「てめぇーこそ目障りだ、さっさと降りろ!」 駅の構内に電車が進入したために、騒音は激しくなりましたが、車内のみんなに聞こえる声でした。言い返した男の声は聞こえません。
電車のドアが開いても、察知した客は近くのドアから乗ってきません。
「さっさと降りろ!」
友人のその声で男はよろよろとドアから出て行きました。

 男が惚れる男、友人はそんなかっこいいヤツなのに、マドンナとは結婚せずにまだ独身のままです。
by antsuan | 2006-12-07 17:34 | 身の回り・思い出 | Trackback | Comments(0)
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