あんつぁんの風の吹くまま

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小島新田にある会社 その二

 鉄道マニアだった長男には、よく、東北新幹線を造ったのはお父さんなんだよと冗談に言っていたのだが、保線車両や建設機械の修理のために、北は黒磯から西は静岡まであちこち飛び回っていた。休みは日曜日と祝日だけで、泊まり込みの出張が月に一二回はあるような重労働の仕事だったけれども、辛いという気持ちは全くなく楽しかった。

 仕事柄女っ気は全くなし。外で仕事の出来ない雨の日はもっぱら作業所で部品の組立をやり、機械の音がうるさく音楽を聴くことも無かった。唯一、昔の職場の女性から誘われてペリー・コモの公演を聞きに行ったぐらいで、女性と付き合ってみたいという気持ちはその頃は全く持っていなかった。不思議といえば不思議なのだけれどもそれで不満は無かった。

 となると楽しみは何だったのだろうと今思うが、その他の楽しみといえばやはり食べることだったような気がする。そういえば昼飯は会社が持ってくれた。力仕事なので昼飯でも半端な量ではない。西那須野の国鉄の寄宿舎は若い未亡人が切り盛りしていて、ご飯はとっても美味しかった。田端の操車場ではちょっと離れたところに美味しい食堂があって、わざわざそこまで定食の大盛りを食べに行った。きっとこの辺に芥川龍之介が住んでいたのだと思いながら。

 ある夏の暑い時期だったと思うのだが、三鷹の車両区での仕事があった。川崎から出たのが遅かったせいもあって三鷹に着いたのが昼近くになり、まずは腹ごしらえということで、近くの食堂にと車両区の線路をまたぎ始めたけれども、とにかく暑い、安全靴の中がまるで裸足で歩いているように火傷しそうだった。向こうの武蔵境の駅が陽炎でかすんで見える。

 結局、線路を渡るのを諦めて、クーラーの効いている車で別の店に行くことに決めた。その店は武蔵境駅寄りにあるラーメン屋さんだった。しかも冷やし中華ではなく冷やしラーメンが評判の店だった。

 ところがそれまで冷やしラーメンというものがあることすら知らなかった私は注文するのを躊躇った。店はどんどん混んでくる、そこで普通のラーメンを注文したら愛想のいい方ではない店員が今はやっていないという。ならば仕方がない、冷やしラーメンを食べろと言うことではないか。それを注文した。

 店が混んでくるので落ち着いて食べている人はいなかった。そのせいか、みんなが美味しそうに食べているようには見えない。ようやく出された冷やしラーメンは容器が半透明のガラスに入っただけで普通のラーメンのように見えた。盛りつけは冷やし中華ふうでスイートコーン、モヤシに刻んだ胡瓜とハム、それにやや多めの支那竹だった。

 一口食べてみると旨い。やや固めの麺が丁度噛み応えがよく、汁も濃くでも無く薄くでも無い、客がみな黙って食べている理由が分かった。黙々と食べたくなるほど旨いのだ。こんなに美味しいのだったら大盛を頼めばよかった。本当にもう一杯注文したいぐらいだったが外で待っている客もいるので、諦めて出てきた。

 残念なことに三鷹での仕事はそれっきりで、その後一度もその店に行っていない。
by antsuan | 2006-11-07 18:03 | 身の回り・思い出 | Trackback | Comments(6)
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Commented by seilonbenkei at 2006-11-07 18:24 x
ネタがなくなると昔話にいけるのが若者にない技だとcazorlaさんが言っています(笑)
アルバイトニュース、私が高1の時に30円でしたが、antsuanさんの時はいくらでした?
にしても、プーをしてから大学へという私とは反対の道を行ったわけですね。これが興味深いなぁ。
で、いつの間にやらラーメンの話に終始してるようですが、これから佳境に入るんですよね?
Commented by cazorla at 2006-11-07 19:28
流れとしては ラーメンのあとにロマンスという展開を期待して読んでいたのですが・・・・
冷やし中華とはまた別の味わいなのでしょうね。
具もラーメン系なんですか。
Commented by antsuan at 2006-11-07 19:46
・やっぱりセイロンベンケイさんには誤魔化しが効きませんね。テーマをはっきりさせないまま書いてしまいました。この会社の想い出は、どうしても保線車両の専門的なことが多くてうまく纏められないのです。それと国鉄の悪口を書くことにりそのことも躊躇してしまった理由です。
イヤー、プレッシャー掛かるなぁ。(..;

アルバイトニュースは私の時も三十円だった気がします。
話はズレますが、牛が酒屋の求人に応募して「人間だったら良かったのにねぇー」という、アルバイトニュースのテレビコマーシャルがあったのですが、そのロケはうちのすぐ前の酒屋さんでした。
Commented by antsuan at 2006-11-07 19:47
・あれっ、cazorlaさんにも・・。 私にロマンスなんて皆無です。で、尻切れトンボになりました。
麺の腰の強さは何ともいえませんでしたね。今想えば、あのあっさりした味は岡山の新幹線駅で食べたうどんの味に似ていたような気もします。
Commented by mitsuki at 2006-11-08 20:38 x
夏季には冷やしラーメン以外はやらないとはずいぶん頑固一徹なお店ですが、そのぶん味にも自身があるのでしょう。
偶然訪れた食堂で美味しいメニューに出会えるというのも派遣業の醍醐味ですね。
Commented by antsuan at 2006-11-08 21:56
・めったに行かない店なのに大衆食堂のおばさんは、つなぎの作業服を着て行くと黙ってご飯を大盛りにしてくれたりして。すごく嬉しかったなぁ。