あんつぁんの風の吹くまま

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七沢のイージーライダー

 母が脳腫瘍の手術をしたのは紅葉の始まる十月だった。丹沢の麓にある神奈川県立七沢リハビリテーションセンターに何度通ったことか。オフロードのバイクで東名厚木インターをおりると丹沢はまだ遠い。そのままひたすら舗装もされていない道を突っ走って行く。山肌の紅葉が深くなり、相模川の支流の橋を渡るころ、白い大きな建物が山の麓に見えてくる。

 バイクのアクセルを吹かし、絶対に治る絶対に良くなっていると自分に言い聞かせ、川端を突っ走る。革ジャンにスキー用の真っ赤なオーバーズボン、それに母のカナダ旅行の土産だったバックスキンの長靴。病院に着くとヘルメットを持ったまま七階の病棟に向かう。

 二週間意識不明だった母は奇跡的に回復して二人部屋の病室にいた。隣のベッドには青年が眠ってる。ラクビーの試合で脳挫傷を負って意識の戻らないその青年に付添う、疲れ果てたお母様の顔。頭から管の出ている母は眠ったままだった。無言のまま挨拶をして病室を出る。

 外に出ると満天の星が輝いている。天に向かって祈る、二人とも助けて下さいと。冷たい空気の中を、バイクに跨がり大きく息を吸って思いっ切りキックする。ツーサイクルの乾いたエンジン音が虫の音をかき消して響き渡り、ヘッドライトの明かりが夜露に濡れた道に染み込んで行く。

 あの頃の俺はまだイージーライダーだった。
by antsuan | 2006-10-26 18:28 | 身の回り・思い出 | Trackback | Comments(6)
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Commented by さかぴ at 2006-10-27 08:38 x
うーん そういえば単車のりまわしていたよね。懐かしい思い出話 しかーし 当時も今も髪の毛の量は同じだぁ
Commented by antsuan at 2006-10-27 08:54
・こんな髪の毛の男によく嫁さんが来たものだと思っているんでしょう。サカピさんの奥さんのような都会的センスの女性に憧れて必死に探したんですよ。その涙ぐましい話しはブログには書けません。
Commented by cazorla at 2006-10-28 09:47
是非 その涙ぐましい話 書いてください。

めっちゃかっこいい と思って読んでたのにコメントでこけました。
Commented by antsuan at 2006-10-28 12:27
・何時もこうなんです。なかなか二枚目にさせてくれない。('_;)
いやいや、危なく"成田離婚"になるところだったぐらいなので、ご勘弁を。
Commented by seilonbenkei at 2006-10-28 16:05
続きがあると思ってコメント控えてるんですが・・・
いったんこんな記事書くと皆期待しますよ。
で、読者意識すると書けなくなるんです。私、シリーズ止まってます(笑)
Commented by antsuan at 2006-10-29 09:22
・イヤー、余計な事を書いてしまったと反省しています。セイロンベンケイさんのような文才はありませんからシリーズ化なんて端から考えていません。でもサカピさんの奥さんはとっても素敵な方なんです。