あんつぁんの風の吹くまま

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万博のディートリッヒ

 愛知万博がいよいよ開催される。日本では過去にも結構いろんな大博覧会が開催されている。大阪の万国博覧会、沖縄の海洋博覧会、筑波の科学博覧会など大きなものだけでもこれだけあって、また二十一世紀にもやるのかとちょっと溜め息をついてしまうのだが、夢を広げるのにはこんなものが必要なのかも知れない。と、あまり興味が湧かないのは、今までにどの博覧会にも行ったことがないからなのだ。
 しかし、万国博覧会といえば思い出す本がある。それは、「南京大虐殺のまぼろし」を書いた鈴木明著の「リリーマルレーンを聴いたことがありますか」である。その本の内容にちょっと触れてみたい。
 大阪の万国博では著名なアーティストを呼んでイベントを盛り上げていた。そして、万博の最後に往年の名女優で、歌手のマレーネ・ディートリッヒを呼ぶことにしたのである。しかし、この企画に非難の声が上がった。いかに有名女優であっても、もう60歳を過ぎた歌手の歌をわざわざ聴きに来る人はいないだろうというのが大方の意見だったのだ。ところが、切符を販売し始めると5枚、10枚と売れて完売してしまった。また、ディートリッヒの公演のことを知った各国大使館の関係者が切符を欲しがって、主催者を慌てさせるまでになった。 そしてその日、公演に集まった客は皆、正装の紳士淑女ばかり。ディートリッヒは張りのない声でボソボソと歌いつづけ、いよいよ最後の曲になった。多分、客の多くは最後に彼女が何を歌うのか知っていたのだろう。いや、絶対分かっていたのだ。ディートリッヒが歌い始めると次々に観客が立ち上がり、一緒に歌い始めたのである。あのリリーマルレーンを。 第二次世界大戦中、前線の兵士たちは、ラジオから流れてくるディートリッヒのあの歌を聴けることが、生きている証だったのだ。だから、あの時の苦しみを知っている人たちにとって、絶対忘れられない歌なのだ。 公演は大成功のうちに終了した。
 今度の万博でもこのような素晴らしいイベントがあることを祈っている。
by antsuan | 2005-03-21 06:01 | 思想・瞑想・時代考証 | Trackback | Comments(0)