2006年 05月 01日
海は克服すべきものではない
これは《二条河原落書》「恐怖心による“支配”は教育じゃないでしょ」へのトラックバックです。
ヨット訓練を通して問題児を矯正させようとして、子供を自殺に追い込んだ戸塚ヨットスクールの校長、戸塚宏氏が刑期満了により出所したとの報道がありました。 この戸塚宏氏はヨットの操縦においては超一流の腕を持っていました。私の本棚には彼の輝かしいレース成績を載せたヨット雑誌が数冊残されています。そして、ある嵐の時に同乗の仲間を失った、彼の事故報告の記事も残っています。 私は彼のようにヨットが好きです。それは多分彼と同じ気持ちを持っているからだと思います。つまり、海という自然は人間を差別しないからです。男も女も子供も、白人にも黒人にも変わらぬ厳しさを与え、そして、またこの上なく優しさを授けてくれるのです。 しかし、海は彼が考えているような克服するためのものではなく、自然の偉大さを、そして己の小ささを知らしめてくれるものだと思っています。ヨットをやり始めて、自分は人との勝負事が嫌いな人間なんだということに気が付きました。将棋であろうとサッカーであろうと、人間同士の勝負事は相手の気持ちが気になって勝つ意欲が挫けてしまうのです。 そんな自分がよく海上自衛隊になんか入隊したもんだと今さらながら感心しているのですが、それはさておき、この戸塚氏の教育方法は軍隊の教練って言うものです。子供の教育に当てはめるべきものではありません。「自然とはこんなに厳しいものだから人に甘えては駄目だよ」と、教え諭したい気持ちは分かるのですが、並みの男だって音を上げるようなことを子供にさせるなんて、やっぱりそれは間違っています。 彼のヨットが御前崎沖で沈没し、荒れ狂う嵐の中、ライフジャケット一つで海岸に漂着したとき、戸塚氏は嵐との戦いに勝ったと思ったのでしょうか。海の神様に生かされたとは思わなかったのでしょうか。この事件で彼は人が変わったのじゃないかと考えているのですが、ヨットレースで何度も優勝した経験が、自然というものも克服出来るものと感じてしまったのでしょう。 ヨットで自然の厳しさを教えるのは善しとしても、子供の教育には愛が無ければ逆効果だということに今なお気が付かないのであれば、刑務所で過ごした時間が無駄だったことになります。海は戦場であり墓場なのです。彼の仲間の墓標だけでなく、数多くのみずく屍の見えない墓標があちこちに立っていることに、彼が気が付くことを願っています。
by antsuan
| 2006-05-01 17:58
| 自然・ブルーウォーター・競技
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Trackback
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Comments(8)
はじめまして、
私も海の近くに住んでいて、海が好きです。 ところで、「戸塚ヨットスクール」のHPを読むと、テレビから伝わってくる戸塚校長のイメージとは、また違ったものを感じます。 戸塚ヨットスクールは、学校と言うよりも、更生施設だと思います。 家庭や学校から見放された子どもの、最後の更生する機会なのですね。 いぇ、決して「体罰を礼賛」しているわけではありませんよ。
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antsuan at 2006-05-01 22:26
masasan今晩は。 最近の戸塚ヨットスクールは知りませんが、教会やお寺などが関与する更生施設とは全然違うと思うのです。恐怖のあまり胃潰瘍になって胃に穴が開いて死んだ少年、絶望してフェリーから身を投げた少年のことを思うと、更生の意味を理解しているかどうか疑問です。愛がなければ教育ではないと思います。彼は優れたヨット乗りですが、凍った人の心を暖めるような優しさが見られないのが残念です。
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knaito57 at 2006-05-02 07:22
同じヨットマンの「海に生かされたのを勝ったと思ったのでは」というご指摘なるほど。漁師は海に、百姓は土と、仕事として長くつき合う対象から多くのことを学びますが、それは「大いなる気象や自然から学ぶ」ということです。現代人(ビジネスマンからセイジカまでの)にいいトシをして未熟未完成な人間が多いのは「人間とお金にばかり向かい合って生きている」からでしょうか。
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rabbitfootmh at 2006-05-02 11:57
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antsuan at 2006-05-02 21:42
人間とお金との付き合いがうまくなるよりも、自然との付き合いがうまくなる方が、人間の価値を高められると思うのです。
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antsuan at 2006-05-02 22:12
この頃の日本人は人間としての精神的な生き方を忘れようとしているのではないでしょうか。
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namuko06 at 2006-05-03 20:59
antsuanさん、二条河原さんの記事、みなさんのコメントを読んでいると、教育の目的というか、人間が成長するために必要な要件は何か、という点について気づくことができます。教育とは、何かを克服することが目的ではなく、その先を見通して行わなければならないことでしょう。体罰という手段が、教育の目的であるような、戸塚氏の言い分には、私も賛同できません。
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antsuan at 2006-05-08 14:31
namuko06さん、遅くなりましてごめんなさい。愛のムチという言葉がありますが、「自然」はムチなんかよりももっと恐ろしい武器になるわけですから、よっぽど心して教育手段に活用しないとまた同じ悲劇がおきるような気がします。
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平成15年(西暦2005年)3月開設
世の中、理不尽なことが多すぎます。それが普通の世界だということがようやく分かってきました。しかし人間として生きるためには獣のように本能に心をゆだねるのではなく、精神をしっかり持たねばなりません。「健全なる肉体に健全なる精神を宿らしめよ」を自戒の言葉に、右左あんつぁん(東北弁で臍曲がりなこと)の本領を発揮して、いろいろ書いてみたいと思います。どうぞ宜しく。
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